手紙を書け

弁護士 玉木昌美

 世界的に有名な彫刻家である佐藤忠良氏は「汗をかけ。恥をかけ。手紙を書け。」と言っています。汗をかいて努力し、失敗して恥をかいて向上し、そして、手紙を書いて人間関係を作っていくことが重要であるというわけです。ここ数年、中学校や高校へ出張授業に行くことがあり、子どもたちにはその重要性を伝えるようにしてきました。

「手紙を書け」はすぐに礼状を書けということにつながります。何かをしてもらったら、お礼の気持ちをすぐに伝えることが大切です。法律家の間でも頻繁に文書や資料のやりとりをしますが、送ればすぐにお礼状が返ってくる人もいますが、要請を受けて資料を送付しても「ありがとう。」の一言もなく、何の反応もない人もいます。

クレジットサラ金問題で被害者救済運動に人生をかけ、すばらしい活動をされてきた大先輩の木村達也弁護士(大阪)は何かを送付すればすぐに絵葉書に感想を書いて送ってくださいます。全国レベルの集会等を開催される場合には、当該府県の事務担当者に絵葉書攻勢をかけるというのも有名な話です。さすがに全国レベルの運動を展開される先生は違う、と心から尊敬しています。先生からいただいた絵葉書は心のこもった温かい言葉が多く、いつも励まされ、その絵葉書の数は夥しいものとなり、アルバムができそうなくらいです。私は木村先生を見習い、マラソン大会で行った際に美術館で購入した絵葉書を使用してお礼状を書くようにしています。

これまで司法修習生の指導を担当してきましたが、講義や個別指導でも手紙を書くことの重要性を強調しています。修習生の中には「弁護修習は、僕にとって全国の修習生の誰よりも素晴らしい弁護修習となったと思っております。」と礼状をくれた方もありました。

人間お互いに励まし合って生きる、そこに感動があるのだと思います。

 

「物損事故」としていいですか

このところ、交通事故の法律相談で、事故で負傷した被害者側の相談を受けましたが、警察官から「物損事故にしますか。人身事故にしますか。」と問われ、わからないままに物損事故扱いにした事故の件が続きました。

物損事故となれば、実況見分等の捜査はなされず、記録が作成されません。のちに損害賠償請求の裁判等紛争になったとき、被害者側はその立証に困ることになります。警察官は「物損事故扱いでも保険会社は人身の損害の給付をします。」と説明し、物損事故に誘導する姿勢まで見受けられるケースもあるようです。事故に遭った人はその違いを理解できないまま警察官のアドバイスに従うことになります。

仮に、人身事故扱いを希望する場合でも、事故の当事者はすぐに病院で診断書を取得して提出したらよいこともわかりません。警察官は、物損事故と人身事故の違いを丁寧に説明したうえで、選択をしてもらい、人身事故にする場合の処理をアドバイスする必要があります。細かい事件の捜査をなるべく減らしたいという警察の意向が優先され、過失相殺等事故状況が問題になるケースできちんとした捜査がなされないことがあってはなりません。

事故に遭ったら、まず専門家である弁護士に相談し、機敏にその対応をしていくことが必要です。

弁護士 玉木昌美

出張授業を通じて考えたこと

 先日、滋賀県守山市内の中学3年生の生徒さんを対象に、労働に関する出張授業をしてきました。

 契約であるとか、労働契約、労働条件という聞き慣れない話に対して、皆さん熱心に講義を受講されていました。

 ある生徒さんからの質問で、「労働者を守る法律がたくさんあるのに、残業代の問題とかなくならないのはなぜか。」というものがありました。とても鋭い質問です。法律が機能していれば、労働問題は生じないはずです。なぜ機能していないかと言えば、使用者>労働者という構図になっている会社が多く、労働者を守る法律が軽視されているからです。

 アダム・スミスは『国富論』において、重商主義の発想を否定しています。冨の根源は労働にありとする「重人主義」を国富論の拠って立つ基盤としています。商品の価値、その生産の投下された人間の労働の質と量によって決まります。現代において再考される考え方ではないでしょうか。

弁護士 和合佐登恵

車いす利用者の視点

先日、仕事先に向かうため歩いていると、車いすに乗った男性が、横断歩道のかなり前で止まっており、信号が変わったら横断歩道を渡るのを手伝ってほしいということでした。手伝いながらお話を聞くと、歩道から横断歩道にかけて、意識しないと分からない傾斜があります。車いす利用車からすると、この傾斜は急であって 、よってスピードが出てしまい、横断歩道に飛び出しかねないという不安があるようでした。そして、歩道をつくるにおいて、段差がなければ解決と思って欲しくない、こういう傾斜だって危険である。きっと車いす利用者の視点をもたずにつくったのだろうとおっしゃっていました。
バリアフリー化するのであれば、まさにそれを利用する方の意見、視点が大事です。これを忘れてバリアフリーをしていると言うのは単なるおごりになりかねません。

弁護士 和合佐登恵

カラオケの楽しみ

私の趣味のひとつはカラオケである。思い切り大きな声で歌い、ストレスを解消するのは精神衛生上も健康にもよい。歌う曲は、かつてはフォークとアニメであったが、その後懐メロ、そして演歌が主流になった。

演歌は4年ほど前からある店の先代のママに指導を受けてものにした。彼女に毎回課題曲を与えられ、点数を勝負して覚えていき、進化を重ね、歌が上手な彼女とほぼ互角にわたりあえるレベルになった。その関係で点数にこだわり続けている。幸い、行きつけの店のカラオケの機械に愛されているのか私だけが相性がいい。そのカラオケでは98点が最高点であるが、私は一晩で5曲98点を出すことも可能である。

点数にこだわるのは、大学の受験戦争の名残かもしれない。しかし、低い点数しか出なかった歌が高得点で歌えるようになるのは喜び・楽しみになる。

奥まった場所にその店はあるが、私の声は近くの公園にまで声が響くらしい。司法修習生のとき、大先輩の弁護士が「声が大きいだけで弁護団に役に立つ奴もいる。」との話を聞いて、そこに生きる道を見出したことを思い出す。

ある女性に「先生は音程が正確でうまいかもしれないが、歌に艶がない。」と指摘された。図星であるだけに辛いものがある。ママによれば、「演歌を歌ってもさわやかすぎる。」という。倍賞千恵子の本を読んでいたら、彼女は「歌に色気がない。」と批判され、悩んだという。彼女と同じ悩みをもっていることに感動した。

店では、「先生というが、音楽の先生か。先生をやめて歌手をめざしたらどうか。」と酔客に言われ、その冗談に喜んでいる自分がいる。

これまで滋賀県内で笠木透さんのコンサート(死亡後は追悼コンサート)を企画してきた。笠木さんは「歌がなくては人間らしく生きてはいけない」と言っているが、同感である。

街頭で訴えるにも、講演をするにも通る声は力になる。カラオケで気分転換をしながら、さらに鍛えることにしよう。

 弁護士 玉木昌美

 

日野町事件再審開始決定のその後

2018年7月11日、典型的な冤罪事件である日野町事件で再審開始決定を獲得した。その関係で全国あちこちで講演することとなった。

同年8月25日、東京で「なくせ冤罪!市民評議会 第6回定時総会」の記念講演をした。市民評議会は、再審事件における証拠開示の法制化と再審開始決定に対する検察官の不服申立ての制限を訴える運動をしている。たまたまよい裁判官に当たれば、証拠開示がなされ、再審開始に至る、そうでなければ、棄却され、無辜の救済ができない司法の現状は大きな問題である。検察官が不服申立をする中、当事者が高齢化し、失意のまま死亡することも重大である。日野町事件の阪原さんも本人の再審請求の即時抗告審の段階で死亡している。

同年9月29日、台風が近づく中、国民救援会岐阜県本部の大会で講演した。全国の国民救援会の支援が冤罪犠牲者の闘いを支えていることを痛感する。その物心両面の支援がなければ、30年以上にわたる闘いを継続することはできない。阪原さんが救援会員の支援に深く感謝をしていたことを思い出す。

同年10月5日、彦根共同法律事務所友の会で講演した。会場から、「誤まった裁判をした裁判官は何らの制裁も受けないのか。」という鋭い質問が出た。日野町事件は、一審、二審、最高裁、本人の再審請求と4回にわたり誤まった裁判を受け続け、5回目にしてやっとまともな判断を受けることができた。会場からの質問はもっともである。虚偽自白の理論や「疑わしきは被告人の利益に」の刑事裁判の鉄則をわかっていない裁判官が刑事裁判を担当することは許されない。

日野町事件は、検察官が即時抗告をしたため、大阪高裁に舞台を移す。「無実の者は無罪に」当たり前の刑事裁判を実現するため、さらなる支援をお願いしたい。

弁護団は、全国からの要請を受け、手分けして報告に飛び回っている。裁判とともに救援運動も強化し、阪原さんの無念を晴らしたい。

弁護士  玉木 昌美

1時間00分00秒

大阪城公園ナイトラン10キロを快走した。このところ、練習不足、膝の故障で調子はよくない。完走狙いでの走りであったが、涼しくなって走りやすく、ライトアップした大阪城を眺めながら走った。後半は、ペースメーカーになる人を見つけては追いかけ、あるいは競り合ったりした。そして、ゴール手前59分53秒の表示が見え、最後の力を振り絞ってスパートしてゴール。タイムは何と1時間00分00秒という傑作なものであった。昨年53分を切って走っていたことからすれば、走力は大幅にダウンしているが、面白い記録である。昨年、丸亀国際ハーフマラソンで2時間00分09秒を出したが、それ以上である。走ることは生きること、走れることに喜びを見出す人生である。

弁護士  玉木 昌美

日弁連法廷弁護技術研修を修了しました。

2018年8月8日~10日,東京・霞が関にある日本弁護士連合会の弁護士会館で開催された刑事法廷弁護技術研修に参加しました。

本研修は,市民の方が職業裁判官と一緒になって裁判員として参加する裁判員裁判を念頭にしたものです。刑事裁判の手続きや審理の内容は,専門用語が飛び交い,法律の専門家ではない市民の方々には何をやっているのか全く分からない状況でした。

そこで,市民の方が裁判員に参加して,見て,聞いて,分かる裁判を目指して実施されているのが本研修です。

本研修では,冒頭陳述,主尋問,反対尋問,最終弁論という弁護人が刑事裁判の中で行う各手続きについて,どのようにすれば市民の方にも分かりやすいようにできるか,模擬裁判記録を利用して実演をして,直後に刑事弁護のトップランナーである講師陣から講評をもらうという,極めて実践的なものです。

本研修では,弁護人としての立ち振る舞い,話し方,話すスピード,目線,発言の一言に至るまでチェックをされ厳しい指摘を受けます。

三日間を通じて実演を行い,できていない点について指摘を受けるのはとても辛いものではありますが,自分では気づくことができない点を多く気づくことができました。

刑事事件では,ご家族の方に情状証人として出廷いただいたり,被告人質問といってご本人に質問をする手続きがあります。本研修で学んだ尋問技術はまさにこのような場面で役立てることができます。

また,本研修で学ぶことできた尋問技術は,刑事事件だけでなく,一般の民事事件にも役立てることができ,依頼者の皆様の利益に貢献できるものと思います。

自由法曹団2018年5月集会に行ってきました。

自由法曹団2018年鳥取・米子 5月研究討論集会

~LGBT分科会に参加して~

1 LGBTに関する法的問題

自由法曹団の5月集会が鳥取県の米子で開催され,LGBTの分科会に参加しましたので,報告を致します。

分科会では,LGBTとは何かという総論的な内容,各論として裁判例や各団員の事件報告がありました。LGBTとは何かという総論の点は割愛をしますが,LGBTの人は,行政,企業,家族,友人など様々な社会的な場面において,事実上・法律上の問題に直面し,多くの生きづらさを抱えています。

特にLGBTの人たちは,家庭内でも少数派であるということが他の問題とは異なり家族にさえ差別を受けることがあり,このような原因がLGBTの自殺率の増加につながっているものと思います。LGBTは差別問題のるつぼだと思います。

事件報告では,LGBTであるがゆえに,違法な業務命令をされる,解雇されるといった報告があり,LGBTであるがゆえに様々な人権侵害が発生していることが現実に起こっていることを学ぶことができました。

まだまだLGBTに対する正しい理解が広まっていない社会において,LGBTの人たちが直面する法的問題点は様々であり,弁護士が関わるべき事案は非常に多いと思います。  LGBTに対する差別や偏見が背景にある法的問題点を解決するには,当事者や関係者にLGBTに対する正しい理解をしてもらい,その理解に基づき対応を求める必要があります。

当事者だけでは難しいと思いますので,是非弁護士に相談いただきたいと思います。

2 日本におけるLGBTに対する差別

私は,司法修習を1年間していたときに,司法修習生らが主催をする7月集会というシンポジウムの実行委員となり,LGBTに関する分科会を設けました。 私が7月集会でLGBT問題を取り上げようと考えたのは,自治体単位で同性パートナーシップ制度に関する条例が制定される動きが出てきたのに対し,これについて地方議員から「同性愛は異常」であるなどの差別的発言が地方議会やブログ上で公然となされることが報道されたからです。ネット上でもこのような発言に対して肯定的な意見を述べるものすらあり,LGBTに対する偏見・差別は極めて酷い状況にあると感じたからです。

最近では,自民党の杉田水脈(すぎたみお)衆院議員(比例中国ブロック)が,月刊誌への寄稿で同性カップルを念頭に「彼ら彼女らは子供を作らない,つまり『生産性』がない。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか」という発言が問題になりました(2018年7月23日朝日新聞デジタル「同性カップルは『生産性なし』 杉田水脈氏の寄稿に批判」)。

生産性がないから支援をしないという考えは,優生思想につながる非常に危険なものであり,LGBTの問題だけにとどまるものではありません。高齢者,障がい者,経済的弱者,国籍,人種など社会的に弱い立場に置かれている人々に共通する問題です。

私たちは,いずれ高齢者になることは避けられませんし,いつ事故や病気により障がいを持つことになるか,今の仕事が突然なくなるか分からないのです。

生産性がないから支援をしないという考えは,自分たちが同じ弱い立場になったときに,自分たちも社会から切り捨てられることになってしまうのです。

3 LGBTに対する活動について

私は,LGBTの分科会を開催して学んだことを通じて,LGBTが原因で法的問題に悩んでいらっしゃる方の力になりたいと考えています。そのために,LGBTの問題に対する理解をはじめ,LGBTに関する法的問題の研鑽に努めたいと思います。

以 上

融資をえさにキャッシュカードを騙し取られると犯罪者に?直ちに弁護士に相談を!

弁護士 玉木昌美

 お金に困っていたAさんはメールによる融資の勧誘を受け、キャッシュカードを送れば、その口座に送金する、返済はその口座にすれば送金手数料がかからない、カードは完済後に返還すると言われ、業者にキャッシュカードを送付してしまいました。しかし、融資はなされず、騙されたことに気づいたAさんは口座をストップしましたが、それまでに口座はオレオレ詐欺に使用されていました。カードを騙し取られたことを警察に申告したAさんは、「被害者」ではなく、逆に「被疑者」とされ、犯罪による収益の移転防止に関する法律違反で罰金刑に処せられました。最高裁まで無罪を主張して争いましたが、通りませんでした。決してキャッシュカードを他人に譲渡してはいけません。
また、Bさんは、友人のカードを借りて送金するためにその口座を利用しましたが、やはり上記の法律違反で逮捕・勾留されました。私は被疑者段階で弁護人となって活動し、検察官と交渉して起訴猶予の処分になりました。すぐに経験のある弁護士に依頼することが大切です。