えん罪日野町事件の急展開

弁護士 玉木昌美

 犯人にされた阪原弘さんの遺族によるえん罪日野町事件の再審請求事件は提訴して6年目に入りました。この2017年7月18日、19日と捜査を担当した元警察官2名と元検察官の証人尋問を行いました。これまでは証拠開示問題で三者協議を重ねてきましたが、いよいよ証人尋問に入ったわけです。
証拠開示により、捜査段階の引き当てや犯行再現の写真・ネガが多数開示されました。その分析の結果、たとえば、金庫引き当ての実況見分調書には、19枚のうち8枚の写真は復路で撮ったものであることが判明しました。
この事件は捜査段階の捜査官に対する自白以外まともな証拠がありません。犯人ならではの秘密の暴露は何もない事件です。捜査側は、阪原さんが誘導することなく、金庫投棄現場等を案内したから犯人であると主張し、引き当てができたことを犯人性の根拠にしていました。担当警察官は、現場を案内させ、その都度写真を撮って実況見分調書を作成した、と一審で証言していました。
ところが、今回の尋問の結果、結果的に復路で撮った写真をあたかも往路で撮ったかのように使って調書を作成し、かつ、そのことには触れないで証言していたことがわかりました。撮影した写真の順番も確認せず、ネガとも照合せず、帰路も含めて一番よい写真を使って、いわば偽りの調書を作り、その認識はともかく、結果的に事実に反する証言をしていたわけです。再審を担当している検察官は「任意に案内できたことは間違いないから問題がない。」と主張していますが、引き当ての過程をそのまま証拠化しなければ、引き当てが任意にできたことを証明することにはなりません。一審の有罪判決は、捜査官が信頼できることを強調し、任意に案内できたとしましたが、その信頼は崩壊することになります。そもそも金庫投棄現場は捜査官に答えがわかっていたことであり、自白が虚偽であれば、引き当てはその延長線上にあるものにほかなりません。
弁護団はこれから3人の証言の分析を行い、最終意見書につなげていくつもりです。
9月4日には、殺害方法について鑑定意見書を作成した医師の尋問が予定されています。座っている被害者を中腰で両手で絞め殺した、という自白による殺害方法では殺せないことを遺体の損傷を分析した医師の証言により明確にする予定です。
今後も日野町事件に対するさらなるご支援をよろしくお願いします。